新型コロナウイルス感染症の拡大以降、「DX」(デジタルトランスフォーメーション)は企業の競争力を強化する至上命題と呼ばれるようになった。
そんな時勢を踏まえ、企業内に「DX推進部」と呼ばれる専門部署が設立される事例も増えてきた。
DX推進部は、企業がデジタル技術を活用し、業務プロセスの効率化やビジネスモデルの変革を進めるために欠かせない存在だ。
そして、専門部署が存在することでスムーズにDXが進むということもよく知られている。
しかし、鶴の一声で専門部署を用意したが、具体的に何をすればDXが推進したことになるのかがわからず、他社事例の調査がメイン業務となり、なかなか実務に落とし込めずに途方に暮れるケースも多い。
今回の記事では、DX推進部の設置目的、業務プロセス改革やデジタル技術の導入に向けた役割を説明し、事例を踏まえた成功要因と失敗要因の分析を提示する。
企業内で言われるDXとは、デジタルを活用して企業や業界の変革する「新しい取り組み」、その総称たるキーワードだ。
端的に言えば、D(デジタル化)よりも、X(トランスフォーメーション、変革)が目的だ。
ひとつの業務にデジタルを適用して個別最適化するだけでなく、企業が行う事業活動まで含めて、あらゆる活動をデジタル化した全体最適化が最終的な目標に掲げられることも多い。
紙を用いたアナログ業務をデジタルツールに置き換えるだけでなく、SaaSツールの導入による業務フローのデジタルシフトや、経営体制の抜本的な改革、ひいては新規事業の企画・立案まで包括して、幅広く「DX」と呼ばれている。
従って、企業におけるDXの推進や実現は、全社的に取り組むことが理想だ。
ただし、いきなり全社部門が独自にDX推進を進め、全社連動したデジタル化をすることが非現実的だ、ということは言うまでもない。
こういう場面において、「DX推進部」という専門部署が必要になる。
DX推進部門の役割は、専門組織としてDX推進に必要なリソースやノウハウを集約させて、社内の手続きや部門間の調整をスムーズに進めることだ。
実務としては幅広く、DXを通じて実現したい姿(あるべき姿)の策定や、現時点の姿とのギャップを明らかにしてアクションプランの計画、実行まで担う。
DX推進部とは、企業のあるべき姿を実現するための旗振り役と言っても過言ではない。
DX推進部門を会社に設立する場合、各部門を拡張する形式・専門部門として立ち上げる形式などの様々な組織モデルがある。
それぞれのモデルに特徴とメリットとデメリットがそれぞれある。どのモデルが正解、ということはないが目的に応じて必要なモデルの形は存在する。
IT部門拡張モデル
まず紹介するのは、デジタルに詳しい社内の既存のIT・情報・システム部門を拡張し、DX推進部とするモデルだ。
このモデルのメリットは、技術面での強力な支援を期待できることにある。デメリットは、ビジネス部門との連携が困難なことだ。
つまり、ITやシステムを用いた既存業務の効率化は得意分野だが、反面、事業開発が本業ではないのでDX推進の業務を目的にすると、業務が滞る可能性がある。
事業部門拡張モデル
次に紹介するのは、既存の事業部門にDX担当者を配置し、現場レベルでのデジタル化を推進するモデルだ。
このモデルのメリットは現場に即した柔軟な対応が可能なこと。一方、デメリットは統一的な戦略の策定が難しくなることだ。
つまり、ボトムアップで「こういうことができたら良い」という発想で業務を効率化できても、それが部門単位や業務単位に最適化されて、サイロ化に陥る可能性がある。